2020年10月7日水曜日

コピペ 無知に浅知恵、はてはデマまで。日本学術会議会員任命拒否問題が露呈させた与党自民党政治家の低劣ぶり

HARBOR BUSINESS Online / 2020年10月7日 8時33分

◆国会どころか自民党内議論も軽視する安倍〜菅政権

 日本学術会議の推薦した次期会員のうち6名の任命を菅義偉総理大臣が特段の理由も示さずに拒否したことは、まずもって根拠法たる日本学術会議法ならびに当該法に関する過去の政府の国会答弁と法解釈に反したものである可能性が高く、行政の一貫性や法の支配の観点からもきわめて重大な問題をはらんでいることは、すでに複数の法律家や識者が指摘している通りです。

 こうした手続き上のずさんさや遵法意識の低さ、また政府が負うべき説明責任の軽視は、先の安倍政権以来のもので、菅政権もそれを正しく継承しているのでしょうが、どう考えても国家社会に混乱をもたらす単なる迷惑行為でしかありません。国民に対するハラスメントは即刻やめていただきたいものです。

 そもそも政府が日本学術会議の人事に介入したいのであれば、事前にそれを可能とする法改正を行っておけば(少なくとも手続き上は)問題なかったわけで、衆参両院で与党が安定多数以上を占めている現状なら恐らくそれは造作もないことだったはずなのですが、これも安倍政権以来の伝統で、菅政権もまた国会のみならず党内議論すらも軽視しているのでしょう。自民党議員の皆さまにおかれましては、今後も単なる採決要員としてのお仕事に邁進されることと存じ、衷心よりご同情申し上げます。

 とはいえその自民党所属議員が今般の学術会議会員任命拒否問題をめぐって、ただの採決要員であることに飽き足らなかったのか、途轍もない無知と低レベルぶりを晒しているのもまた事実です。

◆低レベルの浅知恵をここぞとばかりに披露する自民党議員たち

 たとえば、自民党の長尾たかし衆院議員は10月3日に更新したブログにおいて、3年前に学術会議が出した「軍事的安全保障研究に関する声明」を取り上げながら、「日本学術会議は中国人民解放軍傘下の大学留学生受け入れをどう認識しているのか」、「機微技術は海外にダダ漏れ」であり「矛盾していませんか?」などと述べています。

 まず大前提として、日本学術会議はあくまで日本の科学アカデミーのひとつとして政府への諮問に応じたり、提言や声明を出したりするだけの特段の権限を持たない組織に過ぎず、当然ながら留学生の受け入れに直接関与することはありません。過去に外国人留学生に関連する提言や報告等を出している程度です。もし仮に長尾議員の言うように日本の「機微技術」を中国からの留学生が「ダダ漏れ」させているという確かな証拠を掴んでいるのであれば、権限のない学術会議にではなく、大学の所管官庁である文部科学省及び菅政権の責任をまず問うべきでしょうし、技術の輸出入を規制する外為法違反の可能性もありますので、早急に告訴されることをお薦めします。なお、文部科学省の現行ルールにおいて、「現役軍人又は軍属の資格の者」は国費留学生の受け入れ対象外となっているなど、他国の軍事研究との直接の関わりを防止する一定の仕組みはすでに存在しています。とりあえずよく調べもせず学術会議の話に一丁噛みしてやろうという浅知恵が透けて見える、低レベルの印象操作と言わざるをえません。

 また、こちらは今回の問題が起きる前に書かれたものですが、甘利明衆院議員はHP上のコラムの中で、以下のように述べています。

"日本学術会議は防衛省予算を使った研究開発には参加を禁じていますが、中国の「外国人研究者ヘッドハンティングプラン」である「千人計画」には積極的に協力しています。他国の研究者を高額な年俸(報道によれば生活費と併せ年収8,000万円!)で招聘し、研究者の経験知識を含めた研究成果を全て吐き出させるプランでその外国人研究者の本国のラボまでそっくり再現させているようです。そして研究者には千人計画への参加を厳秘にする事を条件付けています。中国はかつての、研究の「軍民共同」から現在の「軍民融合」へと関係を深化させています。つまり民間学者の研究は人民解放軍の軍事研究と一体であると云う宣言です。軍事研究には与しないという学術会議の方針は一国二制度なんでしょうか。"〈出典:甘利明officialWeb「国会レポート410号」〉

 どこから突っ込んでいいやら途方に暮れてしまいますが、まず中国の「千人計画」なるものは、基本的には海外で活躍する学術及びビジネスの領域における高度人材の中国への呼び戻し政策で、対象はあくまで自国民です(参考:中津純子『中国の高度人材呼び戻し政策』)。

 日本人を含めた外国人研究者を招聘する場合にもこの制度が使われるようですが、「参加を厳秘にする」といった性格のものではないことは、この千人計画の制度を通じて中国の大学に移籍した理工系研究者の複数が同計画での招聘であることを公言していることからも明らかですし、専門知を有する人材を国外から集め、自国の研究力を高めるというのはどこの国でもやっていることです。

 第一、この千人計画が軍事研究と関連していたとして、それがただの会議体でしかない日本学術会議といったい何の関係があるというのでしょう。あたかも何か裏ではおそろしい陰謀が巡らされているかのような、それでいて一切が曖昧模糊として具体性のない甘利議員の語り口はなかなか堂に入ったものかと思いますので、国会議員などよりも怪談の語り部に転職いただいた方が、世のため人のためになるのではないでしょうか。

◆陰謀論まがいの脅威論を流布する議員こそ安全保障上の問題

 長尾議員も甘利議員もいわゆる中国脅威論を述べておられるのでしょうし、筆者もまた中国政府に対しては充分警戒すべきであるとは思いますが、現役の与党議員が外交問題ともなりかねないこうした不正確で粗雑な言説を振りまくことこそ、むしろ安全保障上の障害ではないでしょうか。

 また両議員による日本学術会議の「軍事的安全保障研究に関する声明」に対する理解もいささか短絡的なものと言わざるをえません。

 この声明は軍事研究を一律で禁止するような性格のものではなく、「軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設け」、また「学協会等において、それぞれの学術分野の性格に応じて、ガイドライン等を設定」した上で行うよう求めていることからもわかるように、しかるべき手続きを踏んだ上でならば軍事研究を行うことを明白に許容しています。

 現在、ネット上では日本学術会議といえば軍事研究禁止をうたう団体といった評価が先行しているようですが、当該声明自体はかなり玉虫色のものであって「軍事研究禁止」という単純な主張のみをここから読み取るのは困難でしょう。

 しかし、今回の問題に関して最大級の低劣さを晒したのは長島昭久衆院議員に他なりません。

◆最大級の低劣さを晒した長島昭久衆院議員

"日本学術会議問題は、政府から明快な説明責任が果たされるべきであることは勿論、首相直轄の内閣府組織として年間10億円の税金が投じられる日本学術会議の実態や、そのOBが所属する日本学士院へ年間6億円も支出されその2/3を財源に終身年金が給付されていること等も国民が知る良い機会にして貰いたい。"〈出典:長島昭久衆院議員のTwitter〉

 長島議員は日本学術会議OBがそのまま日本学士院の会員へスライドし、終身年金を受給できるかのように語っていますが、事実無根です。日本学術会議と日本学士院とは目的も機能も、また会員となる要件も全く異なります。前者は政府の所管する諮問機関で会員は任期制であり、後者は「学術上功績顕著な科学者を優遇するための機関」(日本学士院法第1条)、つまり功労の多大な科学者の栄典・顕彰を目的とした機関です(会員は終身制)。人間国宝や文化功労者、あるいは叙勲・褒章などと同趣のものと考えてよいでしょうが、ただ学士院の場合、会員が寄稿する紀要の発行や資料の収蔵管理などを行う学術研究機関としての機能も持っています。

 日本学士院の公式ウェブサイトを見れば即座にわかるのですが、現在の150名の定員はノーベル賞受賞者をはじめ各分野の権威中の権威といえる科学者で占められていて、法令に基づいて会員1人あたり250万円の年金が支給されています。この数字をどう見るかは人によってさまざまでしょうが、日本の学術への長年にわたる、そして圧倒的なまでの功績に報いるべく支払われる額としては、実にささやかなものだと筆者は思わざるを得ません。科学者として、その人生の大部分を費やして人類の知の領土を大きく拡げてくれた方々を皆で支え、その功績を讃えることを躊躇うほど、人間として落ちぶれたくはないものです。

 この長島議員のツイートを受けてなのか、「この人たち(日本学術会議会員のこと)6年働いたら、そのあと学士院という所に行って年間250万円年金貰えるんですよ、死ぬまで。皆さんの税金から。そういうルールになってる」と発言したテレビ解説者がいたそうですが、上記の通り金額以外は徹頭徹尾デマです。後日別の番組内で訂正したそうですが……。

◆さらに低劣発言を重ねる長島議員

 長島昭久議員は更に次のようなツイートをしています。

"日本学術会議問題は、今週にも行われる衆院内閣委員会での政府説明で決着がつくと思うが、結局、官邸としては、過去の慣例を踏襲せず、政府の一機関に属する公務員として相応しいか否かで任命の判断をした迄で、政府に認められないと学問の自由が侵害されるとの批判は、自由とは真逆の発想ではないか。"〈出典:長島昭久衆院議員のTwitter〉

 看過しがたいのは、「政府に認められないと学問の自由が侵害されるとの批判は、自由とは真逆の発想ではないか」という発言です。どうやら長島議員は日本国憲法第23条「学問の自由は、これを保障する。」の「保障」は、政府ではなく国民が自助でやるべきことと認識されているようです。

 言うまでもないことですが、第99条に規定されている通り、日本国憲法の名宛人は日本政府にほかなりません。したがって学問の自由を保障する義務を負うのは国民ではなく日本政府です。こんな中等教育レベルのことも理解していない人間が与党議員として議員歳費を貰い続けていることと、人類の歴史に偉大な足跡を残した150名の日本の科学者に終身年金を支給することのどちらが国家国民のためになるのかは明白ではないでしょうか。

◆杉田水脈の科研費騒動レベルのことをする政権中枢

 かつて自民党の杉田水脈衆院議員が科研費をめぐって起こした騒動と同様の事態が、今度は末端の議員ではなく、あろうことか政権中枢によって惹き起こされたのが、今回の日本学術会議会員任命拒否問題だったと言えるかも知れません。

 その際にも述べたことですが、国民の税金が投入されているからこそ学問の自由が政府によって充分に保障される必要があります。たとえば、タバコ会社の資金提供でタバコの人体への害に関する研究が自由にできるでしょうか。あるいはゲイツ財団から研究助成を受けてビル・ゲイツの絶対に知られたくない過去(仮にそんなものがあるとして)を赤裸々に暴き出すような伝記研究ができるでしょうか。

 「税金が投入されているのだから、時の政権の意向に従え」という発想は学問の自由を根本から毀損し、ひいては亡国への道であることを先の敗戦から学び、その反省のもとに設立されたのがまさに日本学術会議でした。同会議が発足した昭和24年1月22日付の声明「日本学術会議の発足にあたって科学者としての決意表明」は以下のように始まります。

"われわれは、ここに人文科学および自然科学のあらゆる分野にわたる全国の科学者のうちから選ばれた会員をもって組織する日本学術会議の成立を公表することができるのをよろこぶ。そしてこの機会に、われわれは、これまでわが国の科学者がとりきたった態度について強く反省し、今後は、科学が文化国家ないし平和国家の基礎であるという確信の下に、わが国の平和的復興と人類の福祉増進のために貢献せんことを誓うものである。"

 このとき科学者たちの胸中にあった「反省」と「確信」を、カビ臭い理想主義だと一笑に付すか、あるいは自分たちの歴史の一部として改めて引き受けていくか、いまその岐路に立たされているように思えてなりません。

〈文・GEISTE)Twitter ID:@j_geiste